エンプロイメンタビリティ
[エンプロイメンタビリティ]
「エンプロイメンタビリティ」(employmentability)とは、「企業の雇用能力」を意味する用語です。雇用される側からみて魅力的な企業か、継続的に雇用されたいかといった価値に関する概念で、雇用主としての能力や優秀な人材をひきつける吸引力を表します。単に高報酬を保障できればいいということではなく、エンプロイメンタビリティには、良好な職場環境やキャリア支援の提供、説得力のあるビジョンなど、働き手のやりがいを喚起する総合的な企業の魅力が反映されます。
エンプロイメンタビリティのケーススタディ
人材の流動化に対応して魅力的な雇用主に
社員の“雇用されうる能力”の向上に取り組む、企業姿勢が重要
「企業の雇用能力」というと、企業がどれだけ多くの雇用を支えられるかという意味の雇用吸収力と混同され誤解を招きがちな表現ですが、そうではありません。「エンプロイメンタビリティ」は、企業が優秀な人材を“雇用しうる能力”という意味で使われ、いいかえれば、企業が優秀な人材に“選ばれうる能力”のことを表します。
このエンプロイメンタビリティに相対するのが、働き手一人ひとりが企業に“雇用されうる能力”“選ばれうる能力”を意味する「エンプロイアビリティ」(employability)という概念です。エンプロイアビリティとは、一つの組織内だけで通用する職業能力ではなく、企業の枠を超えて広く雇用市場で通用する個人の職業能力や専門能力のこと。雇用流動性が高く、景気動向に応じてレイオフ(一時解雇)も頻繁に行われるアメリカの企業社会では、“労働移動を可能にする能力”としていちはやく重要視されてきました。
ところがエンプロイアビリティ向上に力を入れると、当然のことながら、キャリア志向の強い働き手がいま所属している会社を飛び出す可能性は高まります。優秀な人材を獲得したり、組織に定着させたりすることも難しくなるわけです。近年は日本の雇用市場でも、若年層を中心に流動性が高まってきました。企業としては、労働者を「雇用する」ではなく、労働者に「選ばれる」という意識を持って魅力的な職場づくりを進めなければ、有為の人材の他社への流出は免れないでしょう。まさに雇用主としての魅力=エンプロイメンタビリティが問われているのです。
個人のエンプロイアビリティの向上に対応するために、雇用する企業の側もエンプロイメンタビリティを高める必要があるという構造の中で、優秀な人材に選ばれる魅力的な企業とはどのような組織なのでしょうか。一見矛盾するようですが、実は従業員のエンプロイアビリティ向上の支援に熱心であることが一つの大きな特徴として挙げられます。たとえ一部の人材が流出したとしても、エンプロイアビリティの高い従業員を育てようとする企業には、市場から新しく優秀な人材が流入してくるでしょう。彼らは、明確なキャリアデザインを持つがゆえに、安定した立場を保障されることよりも、OJTやOff-JTを通じて自らのエンプロイアビリティを高められることに魅力を感じるからです。
エンプロイアビリティとは労働市場における個人の市場価値であり、一方のエンプロイメンタビリティは雇用主としての企業の市場価値であるといえます。人材の流動化が加速する中、双方の価値を高め合うことが今後ますます重要になると考えられます。